亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…案の定、聞こえてくる吐息は、小刻みに震えている。
鼻を啜る音も混じっている。
今日に限って…いつもより何時間も速く起きて………朝っぱらから本当に妙な子供だ。
子供とは泣くものだとは聞いていたが、この子は昔から、あまり泣かない。
泣かない子だったのに、どうした訳か。
………今にも泣きそうだ。
普段無表情なこの子が。
………胸中でじんわりと染みるこの痛みは、罪悪感だろうか。
……自分はまだ、人間なのだな。
………この子が眠っている間に発とうと思っていたのに。
…思いがけない乱入に一端立ち止まったが。
………未練を断ち切るかの様に、また………歩き出した。
一歩。
一歩。
離れて行くにつれ、自分以外の気配は遠ざかる。
自分だけの世界が、始まっていく。
………なのに何故だろう。
………不思議と、あの子の啜り泣きが、大きくなっていく。
半分嗚咽のか細い声が鼓膜を掠め、震えは止まらず。
「―――…父さん」
………私はお前の親だ、父だ、と………言った覚えなど無い。
父と呼べ、とも…教えた事は無い。
いつも無言で、私を呼ぶ時もやはり無言で袖を引いてくるだけのあの子が。
………今、何と言った。
…ザイは、思わず立ち止まった。