亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
振り返っては駄目だと、頭の中では分かっているのに。
身体は勝手に、私の意思に反して動いてしまう。
もう二度と見ないつもりだったのに。
その覚悟は一瞬で消えてしまっていた。
ゆっくりと振り返った私の目に………苦笑を浮かべるコムと……………………大きな瞳に涙をいっぱいに溜めた…見た事の無い………レトバルディアがいた。
その辺の街の民よりもボロな衣服を纏った……しかし飾らずとも最初から綺麗な、小さな小さな子供が…。
私を、見ている。
ほんのりと赤い唇を噛み締め、漏れ出る嗚咽を懸命に堪えて、真っ白な頬を涙で汚して、綺麗な髪に、粉雪をたくさん被せて。
…上着も、マントも羽織らず。
………朝っぱらから、泣きじゃくって。
私が映るには勿体ない、美し過ぎる紺色の瞳。
…こんな風に互いを見合うのは、初めてかもしれない。
お互いの存在を確かめ合うかの様に、ただじっと。
もう何筋の涙がこの子の頬を伝っていったのか。
………銀世界に佇むこの子は、なんだか…目を逸らせば消えてしまいそうで、無性に…愛しくて。
………ザイは、静かに目を細めて。
微笑ともとれぬ微笑を、浮かべた。
「―――………何だ…?」
…そう言うや否や、レトは弾かれた様に積雪を駆け、そのまま……ザイにひしとしがみついた。
…マントに顔を埋め、涙やら鼻水やらを押し付け、すがりついて………離れようとは、しなかった。
泣きじゃくった。
これでもかと言う程、泣いて、泣いて。
泣いて。