亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
勢いよく振り下ろした鎚の威力は凄まじく、並の力でそうそう跳ね返せるものではない。
だがしかし……現に今、鎚は持ち主の手から離れ、数メートル離れた場所に音を立てて落ちた。
ユノを抱いたまま、レトは呆気にとられた表情を浮かべていた。
向かいに立つドールも、飛ばされた鎚の事など今は頭に無かった。
………まるで喧嘩の最中に仲介に入る様に、二人の前に佇む第三者の人影。
音も、気配も、何も無かった。
緊迫していた二人の舞台に………場違いにも等しい他人の介入。
レトとドールは………すぐ傍らで平然と微笑を浮かべる女性の存在に………固まった。
未だ止まない、猛吹雪の中。
何処から湧いて出て来たのか知らない女の存在は、やけに大きく、やけに目についた。
上品な黒いマントを羽織った、細身で綺麗な女性。
華奢な手には彼女には似つかわしくない、驚く程巨大で使いこなされた二メートル強の剣が握られていて………その鋭い切っ先は、固まるドールの首筋に触れるか否かという距離にあった
フードから漏れる髪は、このデイファレトでは見た事の無い金髪で………たまに見る、お日様の色だ、とレトは思った。
金髪の女は、自分よりも背の低いレトとドールを交互に見詰め………そのスカイブルーの瞳で、笑った。
「………子供の喧嘩にしては、えらく物騒な事だな。殺し合いは遊びには入らないものだぞ、少年少女よ」
二人の子供の、呆気にとられた視線を心なしか楽しみながら、ローアンは間違いを叱る大人の様に、軽い調子で言った。