亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
隙の無い臨戦態勢だが、不思議な事に殺意は無い。
この女……急に現れて………どういうつもりなのだろうか。
「………………あんた……何なの…。………ただの通りすがりの人間なら………怪我をしない内にとっとと失せな……」
「可愛い容姿に似合わず口の悪い小娘だな。………………通りすがり………まぁ、通りすがりと言えば通りすがりだが。………ガキ同士の殺り合いなんぞ、大人として見過ごす訳にもいかないからな」
そう言って、女はセミロングの金髪を後ろに払い除け……膝を突いてユノを抱えているレトに視線を移した。
そのスカイブルーの鋭い瞳で真っ直ぐ見下ろされ、レトはビクリと身体を震わせた。
どんなものでも射ぬけそうな眼光が、レトとユノを上から下まで見詰める。
「………お前…狩人、だな?………狩人がバリアンの小娘と……喧嘩か?」
バリアン…と、正体をさらりと言い当てられ、一瞬狼狽するドール。
……やはりこの女、ただの通りすがりではない。
………少なくとも、何かしら“知っている”人間だ。
何処か探る様な目付きでドールとレト達を観察してくる。…中立の人間ではなく……敵か、味方か………………どちらかだろう。
「………」
警戒しながら、レトはギュッとユノを抱える腕に力を込めた。
「………無口なのだな。…まぁいい。後で少し………聞きたい事がある」
サッと視線を逸らし、金髪の女は再びドールに向き直った。
ドールは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、腰の剣を抜いた。
「………邪魔をする気?……あんた………何なのよ」
「……私は穏便に話をしたいのだが。それが嫌ならば…まぁ………………挑んでやらない事もない」