亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…ニヤリと挑戦的に笑みを浮かべる女は、穏便に…だとか言っているわりにはやる気満々な様だ。
回りくどい挑発的な態度は妙に腹立たしく、感情的になりやすいドールの機嫌は更に悪化した。
「………いい度胸してるじゃないの…!………一発ぶん殴らないと、気が済まないわ…!」
「…殴る?私をか?」
剣を構え、今にも飛び掛かってきそうなドールに…。
ローアンは、口元に手を添えて、何処かの貴婦人の如き上品な微笑を浮かべた。
「―――…触れるものならば触ってみろ………じゃじゃ馬めが」
…カチン、ときたらしいドールは、これでもかと言わんばかりにローアンを憎々しげに睨み付け、一呼吸置いて地を蹴り、一気に間合いを詰めた。
ドールの鋭い突きは一直線に突き進み、なんだか偉そうに腕を組んで佇むローアン目掛けて勢いよく伸びた。
…目の前にある漆黒のマントに包まれた華奢な身体は、全てを受け流す水の様に、何とも軽やかな動きでドールの突きを横に避けた。
視界の隅に移動するその影に、ドールは間を空けず次の攻撃を放つ。
胴体を横に切り裂く勢いで、真横に向かって一閃を放つが、あと数ミリという距離でそれも避けられた。
…その次の突きも。頭上から振り下ろした攻撃も、斜めからの切り下げも、何もかも…。
ドールの素早い連続した剣技は、どれも全て紙一重の所でことごとく避けられていく。
………しかも、ローアンは剣を構えてはおらず、一応握ってはいるものの……使う気など一切無いのか、剣を握る手は脇に垂れている。
更にドールを苛つかせるのは、その余裕綽々な涼しい顔だ。