亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
知らない人についていくのは勿論駄目だが、つれて来るのも勿論駄目だ。
事情など分かる筈も無いアルバスは、レトから名前を呼ばれて嬉しそうに羽をばたつかせる。
アルバスは音程無視の歌を口ずさみながら、横たわるユノの身体に飛び乗った。
…止めなさい、とアルバスをはたいて退かせようと構えた直後………。
「―――…………ぅ……」
……白く濁った視界の中で、ユノの唇が微かに動き、小さな声を漏らした。
「………ユノ…!?………ユノ……」
彼の冷たい首筋に手を当てれば………本当に僅かだが、脈打つ命が感じられた。
真っ青で死人同然の姿だが、息もある。
生きている。
ちゃんと。
………そうと分かれば、話は早い。
一刻も早く…。
(………安全な所に…)
息を吹き返したといえども、危険な状態であることには変わりない。
とにかく敵のいない安全な場所へ移動しなければ。
「………」
レトはちらりと、すぐ側で繰り広げられている二人の舞台に目を向けた。
少女は苛立った表情で剣を振り回しているが、鋭利な刃は獲物に一向に当たらない。向かい打つ金髪の女も女で、一向に手を出してこない。
………助けてくれた、のだろうか。
敵ではないとしても……味方と判断するのはまだ危うい。
彼女の大剣がこちらにも向くことも充分に考えられるのだ。
やはりまず、ここは…。
「………………アルバス、ちゃんとついて来るんだよ…」
首を傾げるアルバスの前で、レトは動かぬユノを背負い始めた。