亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
目の前が、青と白で埋め尽くされる。
青と、白だけ。
二つの単色で支配されていく。
大きな一枚岩の影に転がり込んだ途端、外界は冷風に包まれた。
前方に見える谷が、あっという間に凍て付いていく。
さっきまで掴んでいた木の根も、立っていた地面も、何も、かも。
雪崩に流され、吹き飛ばされ、暗い谷へ………落ちていく。
手の届かない、底の、底へ。
「……嫌…嫌っ……!あぁ……ああああ…!……ぅあああああ!!」
その華奢な身体の何処に、そんな力があったのだろうか。
大柄なザイをこの岩影にまで強引に引っ張り込んだサリッサは、地に突っ伏して泣き叫んでいた。
冷風と吹雪の轟音の中、ただ、泣き叫んでいた。
泣いて、泣いて。
涙は絶えず流れて。
悲痛な彼女の声を耳にしながら、ザイは。
もう、何も無い、何も見えない外界を………ただ呆然と、見詰めていた。
頭の中は、真っ白だった。
つい今まで伸ばしていた手は、冷たいままで。
幼い温もりは、そこには無くて。
開いても、閉じても、変わらぬ我が手を見下ろして。
唇を噛み締めて。
声を、殺して。
「―――……嫌…!嫌………嫌よ………ああああ!!……ぁあ…………神様…神様!……返して!!返してよ!!こんなの嫌!!嫌あぁぁ……!!」