亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
見渡す限り、真っ赤な砂漠が何処までも何処までも、続いている。
微動だにしない真っ赤な海は、時折吹き付ける突風によって僅かに形を変えていく。
最後に雨が降ったのは、いつだろうか。
乾いた大地は、喉の渇きなど当の昔に失せている。
直射日光を遮るものは何も無く、地上にあるものはその熱に晒され、常に煮えたぎっていた。
夜が待遠しい。
悪魔の如き太陽が眠りに就くその時だけが、唯一の救いだった。
………しかし、時刻はまだ昼間。悪魔が頭の天辺に見える、暑い暑い日中である。
そんな灼熱地獄の舞台を歩くなど、死んでも御免だ。
移動するならやはり………少しでも涼しい方がいい。
………砂漠を歩くのではなく、泳げばいいと考えたのは、はたして何処のどいつなのだろうか。
大昔の、このバリアンの先祖様か。
名案です、先祖様。
「―――…急げ」
風に煽られ、激しくなびくマントを押さえながら、片手に握り締めた手綱を軽く引っ張った。
……途端、全身に浴びる風の勢いが急激に増した。
揺れも激しくなる。
赤い砂漠の真ん中に、砂埃を撒き散らしながら物凄い速さで突進むものが一つ。
まるで突風の塊に見えるが、よく目を凝らして見ると、その中にはぼんやりと人影が見える。
砂漠を泳いでいるのはその人間ではなく、その足元の何かだ。
悠に十メートルはある、巨大な獣……バジリスク。
獰猛な肉食獣で、鋼の如き強靱な岩肌をもつその姿は、巨大なトカゲ。
砂漠の魚、と呼ばれているが、魚よりも鮫の方が適当だろう。