亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
この過酷な土地で獲物を捕らえるべく進化したその脚力は凄まじいもので、手足と尾で砂を掻き分けながら砂漠を縦横無尽に泳ぐ。
普段は砂中深くに潜んでおり、音も無く獲物の真下に潜り込んで一瞬でその巨大な口で食らう、恐るべき砂漠のハンターである。
砂漠を渡る旅人から恐れられているバジリスクだが、飼い慣らしてしまえば何て事は無い。
非常に便利な砂漠の移動手段となる。
………扱いこなすのには、それなりの技量を必要とするが。
そんなバジリスクを見事乗りこなし、熱風を追い越す勢いで砂漠の海を渡る人影。
眩しい太陽をチラリと一瞥し、懐から方位磁石を取り出した。
目指す方向を間違えていないか確認し、更に手綱を引いた。
……突進む前方は赤い砂漠。だがしかし、微動だにしない真っ赤な海の光景とは違い、その先はグルグルと渦潮の様に波打っていた。
………巨大な蟻地獄だ。
高低差の激しい周囲と中央。
砂諸共飲み込んでいくその大穴は、静かに口を開けて獲物が引っ掛かって落ちて来るのを地道に待っていた。
その刃にかかる事を拒み、誰もが避けるであろう蟻地獄に……あろう事か、人を乗せたバジリスクは真っ直ぐ突っ込んでいく。
乗り手か乗り物のどちらかが気でも狂ったのではないかと思われるその行為だが、乗り手の様子は至って普通。
そうこうしている内に、バジリスクと蟻地獄との距離は本の僅かの所。
その巨体諸共、猪突猛進の勢いで穴へと突進む………かと思われたその寸前…。
――…ピタリ、とバジリスクの動きが穴の目と鼻の先で静止した。その背に乗る人影は手綱を放し、次の瞬間………。
自ら、穴へと飛び降りた。