亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
互いに擦れ合い、奈落の底に埋もれていく砂の砦…蟻地獄の真ん中へとダイブした命知らずの人影は、勢いよく厚い砂の海にのまれた。
散々日に焼かれて熱を放つ砂の温度を全身に感じながら、下へ下へと下降していき………これ以上息を止めていられない、という時…。
突如、身体が砂の中から吐き出された。
暑苦しい砂中から、ぽっかりと空いた真下の空間へ……例えて言うならば、その構造は砂時計。
砂など一切無い足元は広々とした空間が広がっており、人影は慣れた様子で着地し、マントの砂を丁寧に払った。
顔を上げればそこは……一見何も無い、薄暗い空間。
しかし何処からか炎の薄明かりが漏れ出ていた。
人影はその光源を辿る様に歩き………とある横穴を潜り、今度は少し狭い、別の空間へと出た。
洞穴の様な部屋の真ん中には、小さな焚き火。
パチパチと爆ぜる薪の音が鳴り響き、そして………マントで身を包んだ、数人の人影が、それを囲む様に佇んでいた。
背丈の小さい、腰の曲がった老人だけがフードを外しており、中央で胡座をかいて瞑想に耽っていた。
……この国の民の特徴である赤色の、髪と長い顎髭。
少し薄くなった髪には、あまり目立たないが、白髪が混じっていた。
歳は七十代から八十代だろうか。
顔の皺や皮膚のたるみが、それを物語っていた。
……人影は焚き火を囲む集団に歩み寄り、マントを脱ぐ事もしなければフードも取らず、顔も何も分からない状態で腕を組み、口を開いた。
「………遅れてすまない」
「寝てたのか?阿呆だな」