亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
焚き火を囲む集団の中から一人が顔を上げ、苦笑混じりに言ってきた。
その低い声音はまだ若い。
「………間違えて本物の蟻地獄に飛び込む馬鹿に、阿呆呼ばわりされるとはな。………世も末だ」
「おい、後で一発殴らせろ」
「断る」
丁重にお断りし、男は焚き火を囲む輪に無言で入った。
向かい側からは、今し方下らない口論を交わした男の恨めしげな視線を感じたが、至極当然の様に無視した。
…ふと横を見れば、隣りに座る人物も深くフードを被り、俯いたまま色違いの小石を手元で転がしている。
小石を掴むやや色白の幼い手からして、まだ少女。
赤、白、黒の小石を無造作に並べては、無造作に転がしている。
………他の者と同様、始終、無言だ。
「―――…それで………オルディオ…」
誰も口を開こうとしないこの奇妙な集い。
痺れを切らした男はそのフードに隠れた無表情に僅かにしかめ、沈黙を破った。
オルディオ、と呼ばれた、中央に座る老人。
名を呼ばれたにも関わらず、瞑想を止めようとはしない。男は構わず口を開いた。
「…ドールから連絡は?」
その名を口にした途端、オルディオの長い眉毛が微かに動いた様に見えた。焚き火の明かりでそう見えただけだろうか。
「………ドール=ラトゥールから、連絡は何も無いのか」
…答えぬ老人に再度尋ねると、隣りに座る少女がポツリと、「…無いわ」とだけ呟いた。
「………あいつがデイファレトに行ってから…もうどれ位経つ…?……何の音沙汰も無いせいで……奴の配下共は心配のあまり気が気でないぞ…」