亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――………人間の意志に……罪は、無し。絶対的な自由意志…。我々人間の精神にはそれは存在せず……精神とは因によって意志され…この因もまた…他の因によって決定され……後者も同じ道筋を辿り………無限に、進むもの…」
瞑想を続けたままの老人の薄く開かれた口から、酷く掠れた声が呟かれた。
反国家組織の頭脳と言っても過言では無い聡明な老人、オルディオは、話に参加しているのかいないのか、全く分からない事を突如言い出す。
聞き手は自然、理解出来る者と出来ない者の二つに分かれる。
案の定、向かい側に座る男はフードの上からガシガシと頭を掻きながら首を傾げていた。…この黒槍の長は、こういう複雑な言葉のオンパレードは大の苦手らしい。
「………あー………誰か通訳…」
「………つまり、ドールは悪くないって事だ」
「…………………………どの辺を変換すればそんな風になるんだ…?」
さっぱり分からない……と頭を抱え出す黒槍を傍目に、再度オルディオに向き直った。
色素が薄くなった彼の髪の下から覗くしわだらけの表情は、ピクリとも動かないし、始終変わらない。
「…なぁ、オルディオ。………以前赤槍が……ドールが言っていた事………どう思う…?………その…」
……遠い雪国へと発つ前。また、発つ理由となったであろう、ドールが話してくれた…とある話。
「………………デイファレトの王族を抹殺しないと………天災が起こるっていう………何とも言えない話だ」
天災が、起こる。それも世界規模の。
ここバリアンの砂漠化や、デイファレトの永久の氷河期などの天罰を遥かに超えた…何か。