亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
何処に…逃げれば…?
何処に?
何処に。
何処に。
「はーい、イブちゃん考えました。どんな時でも、発想の転換が大事だと思いまーす」
楽観的なにこやかな笑みを浮かべて、イブは元気よく挙手をした。ああ、またろくでも無い事を考えやがったなこの女、とリストは眉をひそめる。無視を貫こうと彼女から顔を背けた途端………何故か、その彼女の華奢だが剛力な手が、リストの肩を掴んだ。
嫌な予感。
「要はさ、考えを『逃げる』から『隠れる』にすればいいと思うのよね。一石二鳥じゃない?」
「どの辺が一石二ちょ…おおおああああああああ!?」
言葉の使い方がおかしいその発言に突っ込みを入れようとしたリストの突っ込みは、悲鳴に変わった。
グッとイブの五本の指が肩に食い込んだかと思えば、リストの身体は、浮いた。
凄まじい、そして逞しいイブの剛力は自分よりも背丈の高いリストの身体を掴み、片腕だけで彼を投げ飛ばした。
掴んで、投げる。
その実にテンポの良い動作により、リストは小さな家屋の方へとまっすぐ吹っ飛ぶ。
最初から建て付けが悪かったのか、それとも老朽化が進んだ故なのか。微妙に傾いていた古い家のドアは、悲鳴を上げる来訪者によって勢いよく、そして派手に開け放たれた。
…抱える少年を庇う様に背中からドアに衝突し、揚げ句不法侵入してしまったリストは、そのまま家の中へゴロゴロと転がっていく。
その後にイブも続き、勝手に家の中に押し入ると、大きく開け放たれたドアを何事も無かったかの様にパタリと閉めた。