亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
まず一番最初に目にしたのは、天井からぶら下がる小さなランプだった。指の爪程の灯は仄暗い室内をぼんやりと照らしており、部屋の奥で頭を押さえながら起き上がるリストが見えた。
抱えた青い髪の少年は勿論無傷だが、運び手の彼は存外、被害が大きかった様だ。
部屋中に散乱した家具が、飛んできた彼の勢いを物語っている。
「―――………おい…人を投げるなって……陛下から教わらなかったのかてめえ……」
「時と場合によっては、『構わん』って習ったけどー?」
「………俺はなぁ…今回は普段の倍…十倍、二十倍…いや、百倍も五百倍も千倍も億単位もてめえに関して我慢に我慢を重ねて堪えてきた。………………解、禁、だ」
純粋な子供には見せられない様な恐ろしい形相で、リストは片手で拳骨を作った。
青い髪の少年はその辺の床に寝かせておく。
どす黒い負のオーラを纏ったリスト。おや、どうやら彼は本気らしい…と判断したイブも、両手の指を曲げてボキボキと鳴らす。
とりあえず、一発殴れば気が済むのだろうが、生憎こちらはそう易々と殴られるのを待つほど素直ではない。厄介なので、ここは一旦ノックアウトしておこうか。
…などと、どちらも軽い戦闘体勢に入りかかった。
その、直後だった。
佇むリストの真横にある、家の奥へと続くドアと。
イブの真横にある出入り口のドア。
この二つがほぼ同時に開き、ほぼ同時に……二人の姿が、ドアの影に隠れた。
「―――…邪魔をするぞ」
出入り口のドアを開け放ったのは、この辺をうろついていた数人のバリアン兵士だった。