亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~




―――今の、は…。























…不可解で、何処か気味の悪い………しかし、覚えのある感覚。違和感。


ゴクリと、二人は影で生唾をのんだ。















今のは。














これ…は。


























「………出るぞ」
















…数秒の間を置いて、先頭に立つ兵士は何故かそんな事を口にした。

追っている敵が、もしかしたらこの家に潜んでいるやもしれないと押し入ったのに…大して調べもせずに、この家から出ると言う。

後ろに立っていた数人の兵士達は、豹変した仲間の態度に顔をしかめた。

「お前っ…何を言って…」

「いいから、出るぞ。…他をあたる。早く出ろ」
そう言って兵士は仲間に外へ出るよう、半ば強引に促した。
兵士の目は何故か虚ろで…入って来た時のあの敵意は嘘の様に消えうせている。






…結局、手を振る老婆に見送られながら、兵士達は出ていってしまった。
何事も無く、その場は再び静かになった。








老婆はニコニコしながら大きく息を吐き、車椅子の車輪を回してぐるりと向きを反転した。
テーブルの上に置いていたらしい冷めた紅茶を取り、僅かな量を口に含む。


















「………怖い方達はもう来ないわ。お二人とも、出てらっしゃいな」

老婆は静かな部屋の真ん中で、そう言った。

…柔らかな笑みと声に誘われるように、イブとリストはドアの影から恐る恐るといった様子で姿を現す。
不法侵入者である二人を目にしても、この老婆は笑顔を浮かべるだけだった。
………何故庇ってくれたのかは分からないが……悪い人では無いことは、確かだ。
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