亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「あらまぁ、随分とまた若い方々ねぇ。クッキーあげましょうか?」
「いただきます」
「おい」
少しの躊躇いも無く老婆の差し出すクッキーにかじりつくイブ。呆れ顔で眺めるリストだったが、すぐに老婆に向き直った。
「あの…すみません。………勝手に入り込んで…助けてもらって…」
「あらいいのよ。ハプニング大好き」
オホホホ、と口元に手をあてて陽気に笑う老婆。あの状況を至極楽しんでいたらしい。肝が据わっていると言うか何なのか。
だが………先程から引っ掛かっているこの疑問。もしやと思い、リストは話を切り替えて口にした。
「………ずっと見ていましたが…貴女、あの男に何をした?」
何を?
端から見れば、老婆は特に何もしていなかった。ただ兵士に微笑みかけ、ただ彼の手に本の少しだけ触れただけで。
しかし。
「大した事は何もしていないわよ。そうねぇ…簡単に言ってしまえば…………………“疑心”を、抜いたの。綺麗さっぱりね」
老婆は意味深な言葉を、
実にさらりと吐いた。途端、リストの眼光は鋭くなる。
そうか。
やはり。
「……貴女は…もしかして」
一歩ずつ前に出ながら、リストは呟く。あら何かしら、と首を傾げる老婆。
その傍らでクンクンと老婆の匂いを嗅いでいたイブが、少し驚いた様に目を丸くした。
「……………やっぱりこの人………同じ匂いがする。…………………………………………ダリルと」
このイブの一言に、リストの疑問は答えに辿り着いた。
確信を持った彼の答えが、老婆に向けられた。