亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――…あらまぁ、元気のいい坊やだこと。最近の若い子は鞠みたいによく跳ねるのねぇ」
…この狭い室内の片隅。車椅子に乗った老婆が、にこやかな笑みを浮かべてそう言った。
その傍らに佇んでいる若い男女二人は、呆然とした表情でこちらを見ている。
「………びっくりしたぁ」
「……おい、あの狩人のガキ…縛っておいたほうがよくないか…」
自分を指差しながら会話を進める三人。
縛る…と聞いて、レトは一瞬身構えた。
男性の方はやや敵意を含んだ視線を向けてきてはいるが、女性と老婆は敵意など欠片も無い。
後ろ手で壁に触れながら、レトは少しずつ横へ動いた。
家具も大して無い殺風景なこの家。すぐにでも外へ出られる様に、横目で窓とドアの位置を確認する。
(………ここは…)
…まだ…頭が混乱している。
確か自分は………嵐に巻き込まれて……そこで気を失って…。
………それから。
…それ、から。
「………………ユノは…?」
ハッと、レトは目を丸くして顔を上げた。
そうだ、ユノは?
彼は何処に?
ずっと抱えていた…彼は?
「ユノ?」
明るいオレンジのポニーテールの女性が首を傾げて言った。
レトは剣を眼前に構えながら、室内を見回す。
「……ユノ…ユノは?………ユノは何処?………ユノは………あの子を何処にやったの…!」
彼の姿を追い求め、眼球は忙しなく動く。そしてすぐにレトの目は、傍観者達の背後の影に横たわるユノを捉えた。
血の気も無く、ぐったりと四肢を伸ばしたまま動かない…彼を。
「―――ユノを」
レトは剣を構え直し。
「―――返してっ!」
壁を、蹴った。