亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


たった一度の跳躍で、室内の端にまで一気に跳び移る。
風の如き速さでユノの元へと向かうその僅かな時の中で、行く手を阻む素性の知れない人間に刃を向けた。

一番手前に立っていた、黒髪で始終顔をしかめていた男性に、レトの剣先が伸びる。
互いの距離があっという間に縮まり、その鋭い剣先が彼の胴体を貫くかと思われた……その瞬間。







……視界の真ん中にずっと映っていた、確かに目の前にいた筈のその姿が、何故か、忽然と消えていた。
視界の何処にもいない。
何処にも動いていない。
ずっと見ていたのにどうして。





一瞬で錯乱状態になり、半ば呆然としたレトの…。



真後ろから。
















「狭い所で暴れるなっ」



…という、お叱りの声が聞こえたと同時に………ゴツン、と後頭部を拳骨で殴られた。

「…っ………!?」

大して痛くはないが、地味に痛い。鈍痛が頭蓋骨に響き渡る。
…痛い、という感覚と共に、いつ後に回り込まれたのだろうかという疑問が頭を駆け巡る。



不意打ちに等しい拳骨を喰らったレトは不覚にもバランスを崩し、体勢を立て直そうと宙で身体を捻ろうとした直前……。


「つーかまーえたー!」


満面の笑みのポニーテールの女性に、正面からガシリと抱き着かれた。
抱擁と言う名の、羽交い締めだった。


「…っ…!………離し…て……!………嫌だ…!」

「離せと言われて誰が離すものか少年。……いやー…子供ってどうしてこんなにちっこくて柔らかいかなぁ―。………美味しそうだよね…」

「…食うなよ」


イブの腕の中で暴れつづける少年を見下ろしながら、リストは床に転がっている剣を拾い上げた。
キラリと光る狩人の剣。…よく使いこなされている。

「………小さいなりでも、泣く子も黙る殺しのプロ、ねぇ。……なるほど」

クルリと剣を持ち替え、リストは床に深々と突き刺した。

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