亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「……ユノ…!……離してよ!……ユノが危ないの……!………ユノは…」

女性の絡み付く腕から必死で逃れようとするが、その細い腕の何処にこんな力があるのかと思う程強力で、抗うだけ無駄だった。
両脇を抱えられる形で拘束され、ぬいぐるみか何かの様に大人しく抱きかかえられるしか術はない。
噛みついてもいいが……相手は女性。
敵か味方か分からないが、同業者である狩人ではないことは確か。…となると、この人は一般的に神聖とされているサリッサと同様の普通の女性に入る訳で……傷つけるなど…とてもじゃないが。

どうしようもなく、ただ我武者羅に暴れていた時。

「………ユノって、もう一人の坊やのことかしら?…あら…そういえばそこの青い髪の坊や……酷く具合が悪そうね。………貴方、坊やをこちらに連れて来て下さる?」


…車椅子の老婆は微笑みながら、リストに向かってそう言った。瞬間、レトは大きく目を見開く。

「……止めてよ…!止めて!!……ユノに触らないで!!……近づかないで……!何をするの……!!」

喚き散らすレトを傍目に、リストは言われた通りに横たわるユノを抱え、老婆の元に運んだ。

「……そこの椅子に降ろしてちょうだい。そっとね」

「…貴女……どうするつもりで…」

不安げに見下ろすリストに、老婆はやはり柔らかな笑みを送ってきた。しわだらけのか細い指で、冷たいユノの髪を撫でる。

「……こう見えても私、昔お城に仕えていた医者なのよ。専門知識なんてこれっぽっちも無いけれどね」

「………医者?」

…禁断の地である城の情報を得るべく、ずっと捜していた医者。
城に仕えていた医者というのは……まさかこの老婆……しかも『理の者』だったとは。

……しかし、専門知識が無い医者というのはどういう意味なのか。それでは医者とは到底呼べないではないか。
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