亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「…私の力は二面性を持っていてね。……その内の『解離』は…抜いてしまうの」

「抜く…って…」

「抜くのよ。……傷も、病気も、痛みも……記憶も、人格も、どんな気持ちも………なーんでも」






…何でも。


あらゆるものを、消し去ってしまう……老婆の能力。

生きた兵器として神が創造した、『理の者』。
不可思議な力を持つ、選ばれし十人の彼等は、それぞれ身体の一部に欠陥があるのが特徴だ。

第七の能力『浸蝕と崩壊』を持つダリル=メイは生まれながらの盲目だが……この老婆は生まれつき、足が不自由なのだそうだ。幼い頃から、車椅子だけが足代わりだ。


…人知を遥かに凌いだ神の力は、戦のために生み出されたものであり……その使い手に誰が選ばれるのかは分からない。

だが、一つだけ分かっているのは。













………誰しもが、望まぬ力だということだ。




















あらゆる病や傷を取り除いてしまうこの老婆は、つまり医者を越えた医者……この老婆さえいれば、医者など要らないのだ。
専門知識が皆無であるにも関わらず、城に仕えていた医者であるというのも納得いく。




「………抜く?…抜くって何?………止めてよ…!!止めて!!ユノに何もしないでよ!!」


訳が分からない…。

ユノに触らないで。
誰も触らないで。
近付かないで。

僕が。


僕が、助けないと…。



抗ったところで体力の消耗にしかならないが、レトは束縛から逃れようと躍起になる。
暴れる小さな手がマントの内に潜り込もうとすれば、リストが問答無用でその手を軽く叩いた。



キッとリストを睨み付けようと顔を上げると…正面にはいつの間にか、老婆の微笑があった。
< 742 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop