亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「…あまり近付かない方が……」

「あら…大丈夫よ。心配なさらないで…」

おもむろに近付いた老婆に、安全のため離れるように促すリストだったが、老婆はただ静かに笑うだけだ。





「……本当に大丈夫よ。……皆ね…狩人という人々を、誤解しているの…。…彼等は………蛮人でも殺し屋でもないの。本当はとっても謙虚で、優しくて…とても………心の綺麗な人達なのよ。………ねぇ、坊や…」






…しわだらけの真っ白なか細い指がレトの青銀髪を撫で下ろし、戸惑う彼の色白の頬に触れた。
見ず知らずの赤の他人に触れられるのは嫌いなのだが……不思議と、不快ではなかった。
むしろ…その逆に思える自分がいる。



「………」


目の前の老婆を見ていると、何故か胸中で渦巻いていた苛立ちは次第に勢いを無くしていった。

激しい抵抗も止めてしまい、最終的にはイブの束縛に身を委ねて俯いてしまった。
…急に大人しくなってしまったなすがままのレトを見下ろしながら、イブはブラブラと小さな身体を左右に揺らす。



…なんだか今にも泣いてしまいそうな程、酷く悲しげな表情を浮かべるレト。だが瞼の下の眼球には、迷いやら焦りやらが浮かんでいるだけで、一滴の涙も溜まっていない。


…牙を剥く虎の子から従順な小動物へと変わってしまったレトに、老婆は優しい眼差しを注いだ。


「…坊や、お名前は何というのかしら?」

「……………レト。…………………レトバルディア=クウ……」

「……そう…いいお名前ねぇ。…私の名前はイーオ。姓も誠名も無いの。覚えやすくて簡単よねぇ」

笑いながら、老婆のイーオは俯く青銀髪を愛おしそうに撫でる。
…この小さな猛獣を巧みに飼い馴らす様を、イブとリストはぼんやりと眺めるばかり。




…この老婆、ジンと同じ猛獣使いの資質を充分持っている気がする。

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