亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「……それで……………隣室に寝ているのはやっぱり王族の人間で…お前は同行している護衛の狩人で…嵐にあう前にバリアン兵に襲撃にあって…で、嵐に巻き込まれて親と離れた揚句意識を失って………………今に至る、と…」
「………」
今までの経緯である得られた情報を、繰り返し確認するリストの向かい側で、きちんと椅子に座りながらも黙ったまま小さくなっているレト。
…ここまで聞き出すのにだいぶ時間がかかった。
自分達はフェンネルの者だと言った途端、レトは異常な警戒心をあらわにし、それ以降はしばらく何を言ってもなかなか口を開かなかった。
……マントの内で鈍く光る刃が飛んでこなくなっただけでも、まだマシだが…。
…目を合わせようともせず、ぼそぼそとしか喋らないレトという狩人の少年。
その縮こまった小さな身体からは、やけにピリピリとした空気とこちらの心中を見透かそうとする…子供らしからぬ鋭い気配が滲み出ている。
さすがは、狩人。小さくとも虎の子は虎なのだ。
…それとも、ただ単に人見知りが激しいだけなのか。
何か話し掛けない限り、自分から何も話そうとはしないレト。
テーブルをじっと睨んでいる半開きの綺麗な瞳は微動だにしない。
…こいつは手強いな、と呆れる半面感心するリストだったが………。
…その幼い姿をじっと見ていると………もしかして、だが…。
(………このガキ…警戒しながらパイをガン見してないか…?)
…何処にも逸らされる事なく動かぬ彼の目は……よく見れば…テーブルに置かれたイーオのパイに釘付けになっている…気がする。
薄ら開いた小さな口の端からは、心なしか……物欲しげな涎…みたいなものが見える様な、見えない様な。