亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
試しにパイの乗った皿を掴み、右へ…左へ…とゆらゆらと宙を漂わせてみた。
…悲しいかな。
予想通り、少年の視線は皿が移動する方向へ泳いでいく。
天井へと上昇させれば、視線だけに止まらず頭を上げ…。
床に下げていけば、彼自体もテーブルの下にのそのそと潜っていく。
…なんだこれは。
まるでお預けをくらっている飼い犬か何かだ。
「……レト君。パイ、食べないの?遠慮しなくてもいいのよ」
…レトの様子があまりにも面白かったのか。一分程、影で忍び笑いをした後、イーオは顔を上げてそう言った。
…途端、催眠術にでもかかっていた様なレトはハッと我に返り、再び姿勢正しく座り直した。…リストは皿を元に戻し、溜め息を吐く。
「………素直に食べればいいだろ…。あそこで鳥と睨み合っている馬鹿なんかはワンホールを食い尽くしたところだ。…毒なんか入っている訳が…」
「………何の肉?」
「え、何!?肉っ…!?」
…その不安げな瞳は、決してふざけてなどいない。
このパイとやらは何の肉なのか、と大真面目に聞いているのだ。
パイに顔を近づけ、その甘い匂いを嗅ぐ少年。…この甘い香りがする肉は何なのだろう、とか考えているに違いない。
「お肉じゃないのよ。それはただのお菓子」
「………オカシって何…?」
お菓子が分からない子供が、いた。
…少々驚いたが、狩人なら仕方ないことなのかもしれない。
彼等の主食は街で得られる穀物や、狩った獣の生肉などの類。
調理されたものにはほとほと縁が無いに等しいと聞く。
「パイを知らないの?きっとワイルドな食生活なのでしょうね~。貴方達狩人の文化は私、とても素敵だと思うの」