亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ある意味ローアンと肩を並べている、裏社会に君臨する若き魔王ダリル。
彼の凄まじい毒舌でさばかれた者は、数知れない。
…思い出しても腹が立つばかりなので、魔王の事は頭から早々に消した。
更に喚き散らそうと大きく開いたイブの口を手で塞ぎ、リストは小声で耳打ちした。
「……今の内に陛下に伝達しろ」
「……伝達ぅ…?…何でよ…」
「…阿保か。……俺らの目的は行方不明の王族を捜索して保護する事だろうが。幸運にも、今隣室にはその渦中の王子が眠っている。……そこの狩人のガキは、今は大人しくしているが……俺らがフェンネルの者だって明かした時のあの警戒振り…見ただろ……あの様子じゃあ、まだ信用されてない。………またいつ反抗的な態度を取るか分からねぇ。…その前に、早いところ陛下と合流した方がいいだろうが…」
…未だに緊張の糸を緩めようとしないレトは、こちらが王子を保護するだの何だのと説明しても、頑なに拒み、聞く耳も持たないかもしれない。
だが、ローアンがいれば…彼女が直接会って話してくれれば…全て上手くいく気がする。
…あの方は、そういう方だ。
パイを奪われ、殴られ、阿保と言われながら上から指図されたイブ。
こいつこそ聞く耳を持たないかもしれない…と、ふと思ったリストだったが。
そんなことはなかった。
「名案だと思われまするリスト隊長!!」
冷や汗をかきながら振り返ると、リストの視線の先には、これでもかというくらい目を輝かせるイブが敬礼をして立っていた。