亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
あの暴君が、どうしてこんなにも従順な聞き分けのいい子になっているのだろうか。
薄気味悪いな。
思わず一歩後退したリスト。半ば興奮気味のイブは呼吸も鼻息も荒く、敬礼の姿勢を保ったままその場で足踏みをし、伝達をすべくドアのある方角へと向き直っていく。
「緊急!緊急ね!!大事な伝達だもんね!!じゃあ早くしないとね!!ちょっくらお外に行ってきますよ特務隊長殿!大丈夫、このイブちゃんは敵に見つかっちゃったとかそんなヘマは致しませんですよ、はい!!伝達伝達伝達伝達伝達伝達…………………………キャアアア―!隊長隊長隊長、隊・長ぉぉー!!」
『隊長』……ローアンに会える。ようやく会える。やっとやっとやっとやっとやっと…!!……と、激しく幸せ絶頂らしいイブは背景に花とハートを散らしながら、全速力で外に出ていった。
凄まじい勢いの開閉により、元から歪んでいたドアの建て付けが更に悪くなったのは言うまでもない。
…外から笑い声が聞こえてくる。敵に見付からなければいいが。
(…陛下への伝達はこれでよし、として…後は…)
深い溜め息を吐き、リストは改めて…イーオに向き直った。
彼女は、というと。
…食べた筈なのにパイが復活している…と、目の前のパイをじっと見詰めながらも、遠慮しているのかなかなか食べようとしないレトを、向かい側から面白そうに眺めていた。
…視線を感じたのだろうか。
その優しげな瞳は、リストを映した。
「……何かしら?………お喋りなら大好きよ」