亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
イーオはそう言って、お座りなさいな…とでも言うかの様に、暖炉の傍にある椅子を指差した。
促されるまま、リストは無言で椅子に腰掛けた。
「…あら…坊や、食べてもいいのよ?また作るから」
…パイを睨むばかりで一向に食べようとしないレトに、イーオはそう言った。
…だが、レトは小さく首を振って拒否をする。
「………………ユノにあげるから……駄目…」
「………そう。………いい子ね…」
テーブルに顎を置いて目前のパイをぼんやりと見詰めるレトに笑みを零しながら、イーオは車椅子を引いてリストの前にまでやってきた。
「………さぁ…楽しくお喋りをしましょうか。…私は、何を話したらいいのかしら?」
……ウキウキと、何だか楽しげな口調だったが…その態度は何処か真剣だった。
…フェンネルの者だと明かしても、彼女は自分達を差別しようとも、拒もうともしなかった。彼女の能力を以ってすれば、追い出すことなど容易であろうに。
…それどころか、快く歓迎してくれている始末である。
…全面的に協力してくれるつもり…らしい。
……素姓の知れない、外の人間なんかに。
「……………俺達は………我が国フェンネル王…女王陛下の命により……このデイファレトにやって来ました」
…ふと、背後から警戒心に溢れた視線を感じた。
………二人の会話に、レトが耳をすませているのだろう。
……この際どうでもいい。
「………フェンネル………春の住む国ね。…緑の草木でいっぱいの…綺麗な国………暖かいのでしょうね…行ってみたいわ…。……二年前までは内紛が続いていたらしいけど……。…そう………今の王様は女王様なのね…」