亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
頭やら肩やらにたっぷり雪を被った上機嫌のイブが帰ってきてから、イーオの話は始まった。
彼女の前にイブとリストが並び、その後ろでレトもぼんやりと聞き耳を立てていた。
…全身埃塗れのアルバスが、何処からともなくテーブルに上がってきた。 皿の上のパイを見付けるや否や、鼻歌混じりにルンルンと近寄っていったが、容赦無いレトのスナップのきいた叩きにより、雛鳥は再び何処かに跳んでいった。
「……まず、明確な事を一つ…言っておくわ。………貴方方が目指しているお城…『禁断の地』だけれど………………その名前通り、易々と中には入れないわ。絶対にね」
「…絶対に…って。………もしかして、あれ?お城の中には化け物がいるって話?」
元から半信半疑だったこの化け物の話。首を傾げてイブがポツリと呟くと、イーオは笑みを浮かべて可愛いらしく「ピンポーン」と明るく言った。
「………化け物なんて…本当にいるんですか…?」
「あら~、ちゃーんといるのよこれが。オホホホ!……でも、化け物だなんて言われて可哀相ねぇ…。まぁ、それくらい強くて恐れられているってことかしらねぇ?さすがだわ~」
……笑い話ではない…筈なのだが、何だろうかこの形容しがたい彼女のテンションの高さは。
手を合わせ、目を輝かせて楽しそうに語る彼女。
…まるで、親しい友達か何かの話をされている様だ。
「…で、その化け物とは…何なのですか?」
姿形も分からない、謎の化け物。
城に棲む恐怖の塊の正体を問えば………イーオは満面の笑みを浮かべた。
「―――…ノアよ。凄く人懐こくて、面白くて、楽しくて……ノアはね、昔はよく一緒に遊んでくれたのよ~」