亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


…数分後、ようやく笑いが治まってきたらしい彼女は、ケロリと普段の表情に戻り、何食わぬ様子で再度話しはじめた。



「………ふぅっ……それはまぁ置いといて……ノアは今、無人のお城を守る『守人』なの。………貴方方フェンネルのお城にもいるでしょう?知らない?」

守人…。ああそういえば、と二人はそんな存在がいた事を思い出した。

…フェンネルの城にも、守人は確かにいる。目に見えない亡霊の様な…ゆらりと宙を漂っている三人の老人の姿をした者達だ。

……極稀にしか姿を見せない者達故、その存在をすっかり忘れていた。
…守人が見えるらしいローアンは時折、政治について彼等の意見を求め、会話をしている。

…しかし、他の人間からすれば、空気と会話しているようにしか見えない。


…何故かルウナにも見えている様で、時々…「待て待てぇー!」と笑いながら何も無い空中に向かって手を伸ばし、追い掛けている。






「…五十年前の戦火の後、『守人』になることを決めたノアはそれからずっと…無人と化したあの城で、自分の主の城を守っている筈よ。…城に近付こうものなら、とっても手厳しい歓迎を受けるでしょうね。運が良ければ生きて帰ってこれるかもしれないけど。………あらやだ~、そんなに強張らないでちょうだいな」




…生きて帰れない…などという、冗談であっても冗談じゃない話を前に、聞いていた二人はあからさまに顔をしかめていた。

「………ほらほらほーら…嫌な予感がしてたのよねー。……行きたくなーいーなー…」

げんなりと、イブは深い深い溜め息を吐いた。
……情報収集及び人助けを優先して正解だった。イーオに会っていなければ、今頃自分達はズカズカと禁断の地に踏み入り、ノアとかいう末恐ろしい魔の者の手によって…恐らく………お陀仏だったであろう。

< 760 / 1,521 >

この作品をシェア

pagetop