亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
頭を逸らして五本目になるであろうナイフを避けたところで、リストは「…止めろっ」とレトの脳天に拳骨を振るった。
…しかし少年は泣き止むことはなく…むしろ悪化したと言ってもいいが、独り部屋の角にうずくまり、フードを被ってズルズルと鼻を啜りながら忍び泣いた。
………あの少年、たとえ狩人でも…殻を外せばやはりまだまだ子供か。
「泣くとすっきりするのよね~。放っておきましょう」
「イーオさん、貴女見掛けによらず変なところで変に冷たいですね」
…独りわたわたと慌てるリストを傍目に、二人はあっさりと少年の放置を決め込んだ。
…父さん…父さん…と、まるで呪文の様に何度も連呼する、その淋しげな小さな背中に、真っ黒な雛鳥が歌を口ずさみながら近寄って行くのを眺めた後、一同はここで話を本題に戻した。
「………まぁ…とにかく………眠れる隣室の王子様なら、入れるかもしれないってことね。……一緒に入れてくれるかは分かんないけどさ…」
「そうねぇ………ノアがその時都合よく機嫌が良ければいいのだけどねぇ………あら、違うわ。ノアったらいつも上機嫌だったわ…」
「………それにしても…そのノアとかいう魔の者と…随分仲が良かったんですね。………あ?…でも魔の者って確か、主人以外とは口を利かないんじゃ…」
…世間一般で聞く魔の者の特徴と、そのノアは全く違う気がする。
………特殊だと言っていたから、やはり性質自体が違うのだろうか。
「……そんなに仲が良かったんなら、イーオさんも入れてもらえるかもしれないじゃん」
その昔のよしみで可能なのでは、とイブは言ってみたが…イーオは微笑を浮かべて首を左右に振った。
「………私がお城に仕えていたのは、十二歳まで。……今はもう、こんなおばあちゃんよ。会っても私だと分からないだろうし…覚えてないと思うわ…」