亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
今はまだ夜明け前。
二歳児が何故こんな早くに起きてきているのか。本当ならここで叱らなければならないのだが、文解読を優先としたダリルは、さらりとその義務を無視した。
……案の定、息を切らしたアレクセイが階上から駆け降りてくる。
…この老紳士は過労でいつか倒れるかも、などと頭の隅で思うダリル。
ルウナをあちこち捜し回ったらしいアレクセイはゼエゼエ…と肩で息をしながら近くに歩み寄ってきた。
「アレアレー!見て見て、リルリルがお手紙読んでりゅよ!ねーねー、何て書いてあるの―?何々ぃ―?」
ナイトキャップを片手で振り回して楽しそうに聞いてくるルウナ。
動悸が治まったらしいアレクセイは文を見詰めたままのダリルに、怪訝な表情を浮かべる。
……ダリルに会えば、必ず無慈悲で冷たい言葉の数々にいつまで経っても治らぬ傷心を射抜かれているのだが……文に夢中なのか何なのか、彼は珍しく何も言ってこない。
「……文、ですか?…何の報せですか、ダリル…」
「………全然、大した事じゃないよ」
そう答えるや否や、ダリルは何食わぬ顔でくしゃくしゃの文をぐしゃりと握り潰した。
そして書類の山を両手に抱え直し、二人の前から去っていく。
…何も語らぬ彼の背中が次第に遠ざかる中、首を傾げるアレクセイの足元で、ルウナはニコニコと何やら楽しそうに笑っていた。
「……お手紙、ろーほーだったんだよ!良いことがあったんだ!良いなー!」
「………ダリル個人に?…ルウナ様、朗報とは限りませんぞ」
どういった内容だったのか知らないが、何故か朗報だと確信するルウナ。
「うん!だって、リルリル、とっても嬉しそうなんだもん。ニコニコしてりゅ―」
「…………………………えっ!?あれは笑っているのですか!?」