亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「―――…それで、君。……引き篭り陛下は、まだ引き篭っておられるのかねぇ?」
「…はっ。昨夜も体調が優れないとおっしゃって人払いを命じられたのが最後。……今日はまだ、何も…」
「あ、そう。しかし陛下も困ったものですねぇ。弓張月まで残すところ、あと一日。運命の時が明日の夜と迫っているにもかかわらず、仮病を使ってゴロゴロとされているとは。羨ましい事この上無い。陛下の代わりに忙しく働いているのですから、それなりの報酬は頂きたいものです。訴訟でも起こしてみましょうか?…フフフフフ!!困り果てる陛下の情けないお顔が目に浮かびますよ!」
「………はぁ…」
どう答えればいいのか分からず、目を泳がせて強張った表情を浮かべる兵士に、ケインツェルはにんまりと笑う。
…他の者達同様、彼が苦手であるらしい兵士はぎこちなく目を逸らした。
「ああ、そういえば…陛下の勅令の進行具合は如何かね。今回私はその命にはあまり関わっていないからねぇ…明日の夜と控えている今でも、どうなっているのかさっぱりだ。まだ隠れ上手な雪国の王族は捕まらないのかな?」
バリアンは隠れんぼが苦手なのか。…所詮、本領発揮出来るのは戦場でのみか。
半分からかいながら、ケインツェルは眼鏡に手を添える。
…床を見詰める顔が一瞬、気まずそうに歪んだのを眺め、王族の捜索及び暗殺が上手くいってないという事を知った。
…まぁ、そうでなければつまらない…というのが本音ではあるが。
「……潜伏隊からの伝達を聞く限り………これといって大きな進展は…未だ…。………し、しかし…期限が明日の夜であるのはあちらも同じ事。標的は必ず城へと入る筈…もしくは、既に城へと辿り着いているか…」