亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


………溜め息混じりの小さなユノの声を、レトは聞き取っていた。
その彼の呟きはなんだか酷く疲れている様に聞こえ、不安げにレトは俯くユノの顔をそっと覗き込んだ。

…だが、影をさした彼の顔を捉える直前、不意にユノはその顔を上げた。…レトに向けられたその表情は、いつもの、陽気な笑顔だった。


「…何でもないよ、レト」

「………うん…」

…不自然な程明るい彼を、レトはただ見詰めた。









………イーオの語りの名残か、彼女が話し終えた後も奇妙な沈黙が漂う室内。
…やや暗い雰囲気故か、誰も口を開こうとしない、なんとも居心地の悪い空気だ。


…それを揺るがし、波紋を立てたのは………………部屋の隅に佇む、日付の変わりを報せる大時計の奥ゆかしい音色だった。








太い時計の針が12を指し、ボーン…ボーン…という低い音色を奏でていた。美しいステンドグラスの引き戸の向こうでは、古びた小さな人形の群れがぎこちなく動いている。



「………あら、もうこんな時間。どうりでお外も暗いし冷えている訳だわ。………夢中で話し込んでしまったわねぇ」

イーオは車椅子を引いて室内をうろうろした後、厚手の毛布をレトとユノに手渡した。

「今夜はもう、寝なさいな。子供はちゃんと睡眠をとらないとね…大きくなれないわよ。………お二人はどうするの?」

…と、イブとリストを見れば、リストは即座に首を左右に振った。

「…我々は大丈夫です。いつまたこの家にバリアン兵が来るか分からないですし…仮眠ならとっていますから、お気遣い無く」

…とはいったものの…本当は仮眠などとっていない。だが、眠くないのだ。頻繁に“闇溶け”をしている身体には、睡眠欲が湧いてこない。
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