亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
とりあえず、危険な要素が無いかこの家の周辺を見回り、朝まで寝ずの番をすることにした。
…風も無く、ゆっくりと、垂直に振ってくる雪。
獣の遠吠えも、風の音も聞こえない。
…実に静かな夜だ。
「…それじゃあ遠慮無く、隣の部屋で寝かせてもらうよ。…レトはどうする?」
与えられた毛布を抱え、ユノは隣室へのドアを開けた。暗がりの向こうに、つい先程まで自分が寝かされていた古びた寝台が見える。
………考えてみれば、久々の野宿からの解放である。
同じく毛布を両手で抱えるレトは、「僕は…いい…」と呟いた。
「………横になって…寝られないから。………壁に…寄り掛かって寝る」
…いつ、獣や敵が襲ってくるか分からない…という厳しい環境で育ってきた狩人のレトは、寝ている時も警戒しておかなければならないと教えられており、また、身体に染み付いている。
いつでも、どんな時でも俊敏に動ける様に、抱き枕の様に剣を抱いて、壁に寄り掛かって寝る。………時々、父の膝を枕代わりにして寝ていたという時もあったが。
レトは番犬の様に、ユノが眠る隣室に通じるドアに寄り掛かって寝ることにした。
ユノに何かあれば、直ぐさまドアを開けて彼を守るつもりだ。
イーオは車椅子に腰掛けたまま寝るらしく、一人黙々と毛布を何枚も被っていた。だが、まだ就寝するつもりは無いようで、老眼鏡をかけて難しい本に目を通していた。
……イーオの傍にあるランプ以外の明かりが消されると、薄明かりを囲む様に室内は濃い闇に浸かった。暖炉の火はまだ燃えていたが、もうすぐ鎮火するだろう。
隣室から、ユノが寝台に入る物音が聞こえてきた。
ドアを背に座り込むと、熟睡した小さなアルバスを懐に抱え、レトはゆっくりと瞼を閉じた。