亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…暗くなった室内からそっと…イブとリストは姿を消した。
暖かい家屋から一変。一本外に出れば、極寒の空気が眼球を刺し、気管支を冷やし、衣服をすり抜けて肌を舐める。
…風が無いだけでも幸せだが。
…厚い雪雲に覆われ、星も月も見えない漆黒の夜空の下。
濃い乳白色の吐息を漏らし、寒さにぶるりと身体を震わせた。
黒いマントを羽織っても、大して寒さは変わらない。
「………あー…やっぱり夜は寒いよー。死ぬっ。寒いよー寒いよー寒いよー。……………ダーリン、温めて…?」
「………よし、ルール無し無制限の殴り合いで温めてやるよ」
「ちっとも面白くないわー、ダーリン」
二言三言会話を交わすと……何処までも続く厚い積雪の中、二人は黙り込んだ。
自分達を取り囲む樹木や険しい崖、夜の闇に逐一視線を送り、何度も流していく。
…ひたすら沈黙が続く二人は、腕を組んだまま何かを探る様に周囲の気配という気配に五感を働かせた。
…いつの間にか、二人の額には…野獣フェーラの特徴である、第三の目が瞼を開いていた。
二人のぎょろつく第三の眼球は、互いに違う方向をじっと見据えている。
「………さっきの音、聞こえたか…?」
「…ちょっとあんた…あたしを嘗めてんの?………もっちろん、聞こえましたとも。………地鳴りみたいな音でしょ?…方角は、東」
………日付が変わる少し前だったか。
流れる空気に混じって微かに……地鳴りの様な音が聞こえてきたのだ。
…音源との距離はさほど遠くなかったが、激しい吹雪の歌声で、それは掻き消されていた。
その轟音を聞き取っていたのは、イブとリストだけだった。
「…あれは多分、雪崩だな。……そう遠くはない…近くの山だ。…しかもかなり大きい雪崩だった…」