亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
ただの雪崩なら、全く問題ではない。雪崩くらいこの雪国ではいつでも何処でも起きているだろう。
しかし……。
「………山全体に、魔力による波動が伝わっていた。………雪崩は雪崩でも、何処かの馬鹿が故意に起こした雪崩だな…」
地を這う様な魔力の波動は、地面を直接叩いた様な粗削りのむらが出来ていた。
魔力を直接叩き込むやや原始的な技だが、威力は大きい。
だが…その技を使えば…使い手は…。
(…自分で起こした雪崩に巻き込まれた筈だ…。……単なる自殺行為にしかならない…)
一体誰が、何のために雪崩を起こしたのか分からないが………恐らく危険要素ではないだろう。
その東の方角からは、どんなに神経を研ぎ澄ませても何の気配も感じ取れない。………念のため、近くまで行って様子を見てこようか。
「もう一つの方はどうよ?南の方からの………この臭い…」
くん、と寒空に鼻を利かせてイブは言った。
そう、臭いがするのだ。
焦げ臭い、臭いが。
「…距離はだいぶあるなー。火事でもあったのかな?向こうではやけに煙が充満してるみたい…」
東と南。
別方向からのただならぬ二つの事態。
それらが直接自分達に関係しているものなのか、関係が無くとも後から悪影響を撒き散らすものなのか。
…調べてみる価値はある。
「……ここに陛下が辿り着くのは…恐らく夜明け頃。………調べるなら暗い内にだな」
「………南の火事の方はちょっと遠すぎだからねー。…雪崩の方なら一晩で帰ってこれるでしょ」
結局二人は、雪崩が起きた辺りの様子を探りに行くこととなった。夜が明ける前に戻っていれば、ここに向かっているローアンと合流が出来るだろう。
…彼女がいれば、今後の事もスムーズに行くに違いない。