亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…昼間の巨大な嵐の爆発で、ザイとサリッサは無事だっただろうか。
………否、ザイならば無事であることは間違いない。共にいるサリッサも大丈夫だろう。
…今、何処にいるのだろう。恐らく、自分達を捜しているに違いない。
この静かな夜。二人は、何処で身体を休めているのだろう。
何を思っているのだろう。
夢を、見ているのだろうか。
(………母さんの…夢を見ているのかな………)
…その昔。
浅い眠りしかとらないザイが、滅多に無いことだが…珍しく熟睡していたことがあった。
夜明け前に起きたレトは、向かい側で眠る父の寝顔をぼんやりと見ていた。
普段なら、レトの何気ない視線さえも気付くザイだが、この時ばかりは一向に起きる気配が無かった。
薄く開いた唇から、吐息混じりの低い父の声が聞こえた。
それはとても聞きづらくて、何と言っているのか全く分からなかったが。
…最後に呟いた寝言だけは、はっきりと聞こえた。
『―――…アシュ…』
………相変わらず低い父の声だったが、それは酷く、優しい声に聞こえた。
笑っている様に、見えた。
…母がいる父の夢を、レトは見たかった。夢の中で笑いあっている二人の輪に、自分も入れてほしかった。
姿も声も知らぬ母を。
幻であると、分かっていても。
夢の中でいいから、幻でもいいから。
ただ一言、母さん…と………呼ばせてほしい。
(………全部…全部終わったら………何をしようかな)
剣を抱く腕に、ギュッと力を込めた。懐で眠るアルバスの小さな鼓動が聞こえてくる。
もう一度静かに目を閉じ、レトは顔を埋めた。