亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
その中でちらりと見えた、寝台の上に広がるしわが寄った毛布。
主を包んでいる筈のそれは、何故か寝台から床へと退けられ、だらしなく垂れ下がっている。
そして、どんなに目を凝らしてもその殺風景な室内には…ユノの姿は無い。
…無い?
「……ユノ…!?」
そんな馬鹿な…と、驚きのあまり、レトは警戒心など放り投げてそのまま室内に踏み入った。
部屋の天井、床、寝台の下まで隈無く目を移していき…最後に、冷たい空気が自由気ままに出入りしている開け放たれた窓に、辿り着いた。
傍らの破れたカーテンが、小さく揺らめいている。
レトは開いている窓に駆け寄り、縁を掴んで半分外に身を乗り出した。
…外は、何処もかしこも視界の悪い夜の暗闇。白い吐息も漆黒へと染まる寒空の下をレトは見渡した。
窓のすぐ下の積雪には、小さな足跡が点々と残っていた。その足跡を目で辿って行けば………。
………およそ、十メートル程先だろうか。
森に囲まれた銀世界の真ん中を………見慣れた後ろ姿が歩いていた。
深い積雪に何度も足をとられながらも、必死に前へ前へと進んでいく………ユノの姿。
「………ユノ…!」
窓から外へと飛び降り、レトはユノの足跡を辿る様に彼の元へと駆けて行った。
自分を呼ぶレトの声が、聞こえたのだろうか。黙々と歩いていたユノの動きが、ピタリと止まった。………だが、こちらに振り返ってはくれない。
………彼との間に漂う、この異様な空気。いち早く察知したレトは、すぐ傍にまでは駆け寄らず…二、三歩前で、立ち止まった。
「………………どうしたの…ユノ。………外…危ないよ…」