亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
…その背中に声をかけるが、彼は聞いているのか聞いていないのか。………対する返事は返ってこない。
…ただ、小さな息遣いだけが聞こえてくる。
………珍しく風の無い夜。時が止まっているかの様な気さえしてくる中で、ゆっくりと降り積もる雪だけが我が物顔で二人の間を通り過ぎて行く。
「………………ユノ………何処…行くの…?」
「―――…城」
「………お城…?」
何故家を抜け出したかと思えば…今から城へ?
こんな夜更けに…しかも。
……独りで。
「………お城、行くの…?」
「…行くよ」
「…今から?」
「…うん」
「………独りは…危ないよ」
「そんなの、知ってるさ」
…ユノは前を向いたままで、レトは彼の背中と会話をしているだけで…互いに顔を合わせないままの状態が、ただ続いた。
二人の頭や肩に少しずつ、粉雪が積もっていく。
「………あの…フェンネルの、二人…。………ユノは疑ってるの…?」
「……いいや。疑ってなんかいないよ。………彼等は、敵じゃない……敵だったら、もうとっくの昔に殺されているだろうしね」
「………じゃあ………何で」
…何で、ユノは。
小さく、徐々にくぐもっていくレトの声に、ユノは深呼吸をし、肩を竦めて見せた。
真っ暗な雪空を見上げ、何故かユノはその場で両手を腰に添えて威張る様に胸を張った。
先程とは一変して、やけに明るい彼の声が空へと上がった。
「―――…ねぇ…レト。僕ね」
「………うん」
「…王になるんだ…って、言ってたけれど………本当は僕、王になんかなりたくないんだ」