亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

………そう言った彼の言葉は、半分は笑い声だったが…浮かべている表情は果たして笑顔なのか、それは分からない。
何処か吹っ切れた様にも見えるユノは、何も言わないレトなどお構い無しに話し続ける。




「物心ついた時には、僕は普通の子供が受ける教育とは明らかに違う勉学を教わっていたよ。簡単な文字の勉強から…難しい歴史学や政治学まで詰め込まれた。………ユノ様、ユノ様、王子様って呼ばれ続けていたから…ああ、僕は偉いんだな…王子なんだな…って…理解した」

「………」

「………似たような話を、神声塔の天辺で前にもしたね。あの時も、僕…言ったけど…覚えてるかな?」








―――…途端、くるりと…ユノはこちらに振り返った。
中身の無い空虚で綺麗な笑顔と、目が合った。


「僕は、王になるべき人間だから生かされている。王になる以外、僕には生きる意味は無い。生まれた時から僕は王で、先の未来も王しか無い。だから今日まで、生きてこれた。………今も、その考えは変わらないよ。だって、本当にそうだからね」

「………ユノ…」



何故だろうか。笑っている筈の彼が、悲しそうに見えた。
決められた運命に従い、ただ黙々と敷かれたレールの上を歩くのみのユノ。
そのレールから外れることは、決して許されない。
レールを敷いた神も、その周りを囲む者達も、ユノの周囲の全てが、期待に満ち溢れた眼差しを送っているのだ。








…いっそのこと、王など止めてしまえ。

なりたくないのなら、なる必要は無い。鎖を断ち切って、思い切ってレールから飛び下りてしまえばいい。


…辛そうな彼に、手を差し延べたい。
…道なら、他にもたくさんあるよ。こんなレール、下りて…何処か遠くへ行こう。













そう。いっそのこと…そう、言ってしまいたかった。

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