亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
こうやって話している今は、日が既に高い朝。
…遡ること、数時間前の昨夜。
………それまで一切の連絡が途絶えていた…赤槍の長、ドールの『鏡』が、突然その赤い羽に何かを映し出したのだ。
飛び交う彼女の鏡の分身が、僅かな時間だけ見せてくれたのは…。
………薄汚れた、誰かの白骨だった。
牢獄の隅に横たわるそれは、暗闇の中で白く、鮮明にその輪郭を浮き彫りになっていた。
これは、誰だ。
この哀れな屍は、誰だ。
目にした誰もがそう思い、そして誰もが同時に…悟った。
赤槍は、当の昔からいなくなっていたと。
当の昔に、殺されて…。
その娘は、騙されていて。
「………ドールも、見たんだろうな。…しかし、問題はその後に映ったものだ」
ドールの鏡は白骨の死骸の次に、とある場所を映し出した。
鏡は宙をさ迷いっていたのか、羽に映る朧げな映像は大きく揺れていて、おまけに非常に視界が悪かった。
視界を通り過ぎていく白い物体の群れは、恐らく吹雪。
鏡はその中で白いマント姿の数人の人影を映し、焚火らしき小さな明かりを映し……本の一瞬だけ、見慣れた少女の姿を捉えた。
…吹雪の中、愛用の巨大な槌を構えて佇む…傷だらけの、ドール。
…そこで視界は一転し、銀の鈍い光沢が迫ってきたかと思うと………映像は、途切れた。
………恐らく、何者かの剣によって鏡は断ち切られたのだろう。
それを証拠に、ドールの鏡の分身はそこまで映した直後、細かな光の微粒子となって粉砕してしまった。
…本体が死ぬと、その分身も同時に死ぬ。
「………この流れからすると…ドールは裏切られた様だな。………最初からバリアン兵側は、そのつもりだったろうがな…」