亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
「………ドール…死んだの…?」
白槍の言葉に、少女が不安げな声を漏らした。
…白と黒の長は互いに目を合わせ、少しの間を置いた後…「…分からない」と呟いた。
…ドールはまだ12歳の少女だが、そんじゃそこらの戦士の力とは格が違う実力の持ち主だ。
たとえ独りであっても、バリアン兵などに殺られる筈が無い…のだが。
「………追加された潜伏班に………あのゼオスが加わっているという話だからな。…………無傷、というわけにはいかない…」
白槍が警戒する…ゼオス、という男は、バリアン兵士の中で群を抜く戦士である。
この反国家組織の三槍の中で、気をつけるべき要注意人物と見なしている。
以前一度だけ、ゼオスと刃を交えたことがあったが………長である白槍と黒槍でも、一筋縄ではいかない厄介な強敵であった。
性格はその悪人面のとおり、悪人そのもの。
慈悲の欠片も無く残酷で、敵も味方も人間として扱わない男だ。
…そのゼオスが、デイファレトへ行っているのだ。………昨夜の騒動でドールが対峙していたのが奴だとすれば………残念だが…。
(………………死んだ、と考えるのが……妥当…か…)
………生きていてほしい。
彼女には、今すぐにでも帰ってきてほしい。
…そうでなければ。
(………お前の可愛い部下共が、馬鹿をしでかすぞ…)
赤槍の大長の屍と、消え散ったドールの鏡。
これらと同じものを、赤槍の部下達はしっかりと見ていた筈だ。
昨夜からその誰とも連絡がとれないことを考えると…。
「……………今は…ドールがいない。…その怒り狂った子供を宥める親が、いない」
「…赤槍の連中………暴走するつもりだな」