亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
………長と大長。
…どちらも失ってしまった赤槍の戦士達は、バリアンへの怒りのあまり、暴徒と化すに違いない。
こうやっている今も、着々と戦闘準備に入っている筈だ。
…これは恐らく、バリアン国家の陰謀。
綿密に仕組まれた罠だったのだ。…大長の死も。…大長が生きていると偽って利用された、ドールの心も。
全部…最初から仕組まれていたもの。
…あの若い側近、陰険眼鏡。
…ケインツェルの、陰謀。
(………『鏡』は、見たものをそのまま映す筈だ。だが、『鏡』は生きている大長を映し続けていた。………赤槍の…大長の死を、今までどうやってごまかせていたのか不思議だが………………今は謎解きをしている場合じゃないな…)
………中央の焚火をじっと睨んだ後、突然白槍がその場で立ち上がった。マントを羽織り直し、フードを深く被る。
その様子を、黒槍は怪訝な表情で見上げた。
「………何処に行くんだ?」
「………赤槍の連中がいる巣だ。………連絡が取れないなら………こちらから出向くまでだ」
「………お尋ね者、『白槍のレヴィ』がこんな昼間から外うろついていいのかよ…」
…外は真昼間。
真っ赤な砂漠のど真ん中では、たとえ一人でも目立つ。空には自分達を監視するサラマンダーが飛び交い、人影一つ見付ければ直ちに仲間を呼んでくるのだ。
………長である人間は、ちょっとした移動でも細心の注意を払わなければならないのだが。
「………長が堂々としていて、何が悪い。………俺は逃げも隠れもしない」
…聞く耳も持たず、白槍は踵を返して出口へと向かった。
…残された黒槍は、去り行く勇ましい背中を眺めながら大きな溜め息を吐き………。
………重い腰を上げた。