亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~












「―――…昨夜、東の方角から何者かが故意に起こしたと思われる雪崩がありました。あのじゃじゃ馬と偵察に行ってみたところ、現場は山頂から流れてきた大量の雪で埋もれ、迂闊に踏み込めない酷い有様。………雪中からは微かに血の臭いがあったので適当に掘ってみれば……バリアン兵士の物と思われる武具が、至る所に散乱していました。…死体も数体。…生存者を探してみましたが、それらしい気配もありませんでした。…しかし、何者かが雪中から自力で抜け出した跡がありました。恐らく、誰か一人は生きています。………その生存者を追跡しようとも考えたのですが、夜明けが近かったため、一旦こちらに戻ってきました。………で、帰ってきてみれば…………………………その………」
















「―――…王子が寝ている筈の部屋は、ものけの空だった。…なるほど。…してやられたな、リスト。御苦労」

「…………はっ。…子供を嘗めてました。……片腹痛いです………………陛下」








厚い雪雲の向こうにあるであろう朝日の淡い陽射しは、純白のデイファレトをほんのりと照らしていた。

…昨夜から一向に止まない雪と、白い靄のせいか。明るい筈の外は、やはり薄暗かった。
…このデイファレトに来てからは、まともに太陽を見ていない。



…底冷えする夜明け。

イーオの小さな家の周りには、昨夜から降り続けていた雪のなだらかな丘が幾つも出来ており、白しかない幻想的な景色の中で………リストは苛立っていた。


恐面で足元を睨むそんな彼を正面から見詰めながら、ローアンは苦笑を浮かべた。


「………子供は、目を離したらすぐ何処かに行ってしまうものだぞ?」

「………そういう生き物だってことを忘れてました」

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