亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


半透明の群集が、背後から、そして左右から、まるで押し寄せる波の様に、中央の道を飲み込もうとしている。

視界の端々がエコーで霞んでいく中……同時に、扉の姿もより鮮明に、どんどん近くなっていく。

波にのまれるのが先か。あの扉を開け放つが、先か。






子供を一人、イブに関しては子供を二人抱えた状態で、二つの風は疾走する。

地を蹴るその一歩一歩が大きく、扉との距離は数メートル単位で縮まっていく。

もう少し。
もう少し行けば……きっと手を伸ばせば、その寡黙を貫き堂々と佇む、口を閉ざした巨大な扉に触れられる。


もう、少し。








真横から、鋭い爪を添えた半透明な腕が何本も伸びてくる。触れたものなら何でも掴む勢いで、それらは絡み合い、爪を立て、行く手を阻む。

障害を避け、避けられぬ腕はそのまま噛みちぎり、近寄ってくる敵意を剥き出しにしたエコーに威嚇し…。

二人の速度は緩まない。
















目指していた城が、目の前にある。




扉が、目の前にある。









………でも。



その扉は、固く口を閉ざしている。





そっぽを向いた様に、来る者は全て拒んでいるかの様に。










まるで、見向きもしないかの様に。

























………この向こうに、玉座があるのに。


この道は、あの扉は、僕を導いてくれる筈なのに。














…何故こうも、拒むのだ。























「―――………開けてよ」

風の音も、エコーの呻きも、自分の息遣いさえも、今は聞こえない。
全てが無音の世界で、近付いてくる扉を凝視しながら…ユノは呟いた。
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