亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
扉の至近距離にまで来た二人は、同時に喉の奥で高低の周波を鳴らし、魔術を扉に叩き付けようとした。
ほら、こんなに近いのに。
この扉は開かない。
どうして開いてくれないの。
…開けてよ。
「………開けてよ」
僕は、来たんだ。
言われた通り…来たんだ。
「…扉を、開けてよ…!」
開けてよ。
開けて。
開けて。
開けて。
…開けろ。
…ユノは、扉を睨み付けた。
美しい装飾が浮かぶ、しかし傷だらけの気高き扉を。
一向に開かぬ、その扉を。
僕は、来たんだ。
だから。
だから…。
開けろ。
「―――…扉を、開けろ!!ノア!!」
イブとリストが扉に向かって魔術を叩き付け、衝撃波を与えようと口を開いた。
―――…その、途端だった。
穴を空ける筈だった目の前の扉が。
…唐突に、口を開いた。
「―――…っ!?」
「…ちょっ…!?」
舌の上まで出かかっていた魔術を、二人は慌てて飲み込んだ。
吹雪や風、冷たい空気までも吸い込むかの様に、一同を中へと引きずり込もうとする目に見えない奇妙な引力。