亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
16.仮の面は嗤う
男独りでの子育ては、とてもきついと思うのよ。
体力的にも 精神的にも
子持ちの女のあたしが言うんだから、間違いないわ。
女と違って、男には母性本能っていうのが無いでしょう?
まぁ…子煩悩の男は別として、つまり母代わりになるんだから、四六時中子供への関心が必要不可欠ってこと。
子供は大変よ。
ちょっと目を離せば、いつの間にか何処かに消えてるし。
何か掴んで口に入れようとするし。
刃物に触ろうとしているし。
狩人の親は、どの国の親よりも一番多忙だと言っていいわ。
子育てをする家なんか無い。
食べ物も、何か獣を狩って食べなければ、母乳も出ない。
運が悪いと、夜泣きで獣が寄って来て親子共々襲われる時がある。
女の狩人は、大変。
……だけど、狩人の世界では有名人のあのザイは…もっと大変だったでしょうね。
赤ん坊の扱いもまるで知らなくて、その頃ダンテを育てていたあたしは、見兼ねて子育ての仕方を教えてあげたわ。
…赤ん坊の抱き方も、あやし方も知らないだなんて言うんだもの。
何度アオイに馬鹿にされていたか。
………アオイは、あれはあれで実は五人の子供の父親だからね。
子育ては全部嫁に任せてるみたいだけど。
………ザイは、昔から無口で、人付合いも悪くて、一匹狼な男で。
だけど………息子が生まれてからは、彼は変わったわ。
レトが大事。…命よりも大事って…そんな感じで。
レトへの愛情は、少し異常なくらい。
常にレトの傍にいて、レトも彼の傍にいて。
…ザイ、あんた……いつまで背負っているの。
レトを育てる事は、あんたにとって何の意味を持つの?
レトの成長を、罪滅ぼしになんかするんじゃないわよ。