亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
―――…薄暗い城の天井には、いつ書かれたのか誰も知らないが、細かな古代文字が刻まれている。
それが何処から始まりで、何処で終わるのか、誰も知らない。
とにかく見上げればそこにある古代文字の群れは、文章にはなっておらず単語がただ並んでいるだけで、全く意味は無い。
いつ誰が何のためにこんな古代文字を刻んだのだろうか。この古代文字の存在意味は、何か。
その問いに対する答えは、様々な学者が多くの説を唱えているが………答えは、簡潔で、一つでいい。
とにかく確かな答えは、一つ。
見る者が、いるからだ。
それでいい。
この世の光源の太陽が、自らの消滅を名残惜しむかの様にその神々しい手を伸ばし、地平線の彼方から顔を覗かせるのを……夜の覇者である闇は、容赦無くその光を喰らっていく。
夜の帳によって、じわりじわりと消えていく暖かな光。
そんな頼りない明かりが照らし出す天井の古代文字の群れを、美しい模様が浮かび上がった緑の瞳は瞬きを繰り返しながら、一文字一文字を映し出していく。
…天井から一旦視線を外して頭を下げれば、長い緑の前髪がさらさらと額に垂れ下がり、視界には幾筋もの緑の線が流れた。
何気なく…黒い入れ墨が浮かんだ細い指で、そっと長い前髪を耳にかける。揺れる髪の小さな隙間から………隠す気など無い、自分をじっと凝視する鋭い視線に、ログは目を合わせた。
薄暗い廊下に佇むログの後ろに………このバリアンに住まうもう一人の魔の者、カイが立っている。
………バリアンの王子に仕える二人の魔の者が、謁見の間以外の場所で共にいるのはあまり無いことである。
…お互い同じ魔の者ではあるが、自分の主としか口を利かない。たとえ相手が同胞でも彼等のその鉄則は変わらないため、はっきり言って二人に交流は無い。