亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
話をすることも無ければ、目を合わせることも滅多に無い。
互いの存在は、互いにとっては、ただの同胞。
髪や目の色、全身に浮かぶ入れ墨という外見は同じ。
同じ性質の魔力を持ち、同じ様に偉大な主を持つ、同じ魔の者。
それだけ。それだけだ。
親しくも、何でもない。
異なる主を持つ、ただの同士。
同じ外見で、同じ立場の、赤の他人。
その二人が今、互いの視線を交え、ただ無言で互いを見つめ合っていた。
佇む二人のこの数メートルの距離は、それ以上広まることはあっても縮まることはない。
交じり合う視線は何処か虚ろで、奇妙に冷めていて………異物を観察している様な、そんな視線だった。
真一文字に固く唇を締めたカイが、同じく無表情のログを半ば睨み付ける様に凝視する。
…その、重い敵意を裏に隠した視線を…ログはじっと真正面から受け止めていた。
………しかし、当たり前だが………物言わぬ彼女は、これといって何の反応も見せない。
…奇妙な組み合わせの、奇妙な睨み合いがそのまま永久に続くのではないか…と思われたその最中だった。
「―――…女の子を睨むのはいけないな、カイ。見詰める程度なら許そう」
何とも軽い調子だが凛とした、低い男の声が、カイの背中に投げ掛けられた。
その声を聞くや否や、カイは直ぐさま、パッとログから顔を背けた。そして何事も無かったかの様にいつもの無表情を浮かべ、何処か気怠い様子で、壁に背中を預けて寄り掛かった。