亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
よく見れば、リストの足元にはいつの間にか……漆黒の魔法陣が浮かび上がっていた。
円状の縁に添って古代文字が幾重にも描かれているそれは、怪しい黒光りを放ちながらゆっくりと回転している。
魔法陣の光が濃くなると、リストが苦しげに呻き、奥歯を噛み締めた。
…今、リストを苦しめているのはどうやらこの魔法陣らしい。
そして、リストを苦しめているその魔法陣の術者は紛れも無く………ただ残酷な笑顔を浮かべる、ノアだった。
ノアは指で髪を弄りながら、息も絶え絶えに震えているリストをぼんやりと観察している。
…声が出ないのか。何か言おうとしているようだが、口を開閉させるだけで声が出ないリスト。
動けず、何も言えない彼は、ただただ、自分を見下ろすノアを睨んでいた。
予想だにしていなかった突然のノアの凶行に、ユノとレトは唖然とするばかり。
リストが力無く床に倒れ込むと、ユノは、何故…とでも言いたげな表情をノアに向けた。
「………何してるの?…どうしてこんなこと…!!……止めてよ!苦しがっているじゃないか…!」
「………ノア……止めてよ…」
ユノとレトは二人揃ってノアに訴えた。だが、ノアは聞いているのかいないのか、一向に魔法陣を解こうとしない。
それどころか、浮いていたノアは地面に降り立ち、うずくまるリストを放置してドアの方へと歩いて行くではないか。
…ノアの考えていることが、二人には全く分からない。
「………ノア!……何がしたいんだよ!…ど、何処に行く気…?」
…ただ佇む二人の前で、ドアの目の前まで歩んできたノアは、くるりと二人に振り返った。
「さあさ、お子様はもう睡眠タイムに突入の時間ですよ。使える寝室まで、ご案内致します。…ああ、ミニ狩人、怪我人のお嬢さんを拾って下さいまし」