亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~
横たわるドールを指差し、部屋から出るようにとノアは我関せずの笑顔で促してきた。
…何処か有無を言わせない空気を醸し出すノアに、強気のユノも声を詰まらせる。
レトは半ば混乱したまま、目下で荒い息を繰り返すリストとノアを交互に見遣った。
…だが、自分に注がれるノアの視線に耐え切れず、黙ってドールの元へと駆け寄る。
また熱が振り返してきていたドールは、あまり焦点の定まっていない目で黙々と自分を背に抱え様とするレトを見上げ、微かに眉をひそめた。
周囲には聞こえないくらいの小さな声で、ドールは耳打ちする。
「………何よ…何でこんなピリピリした空気になってるのよ…。………何か不味い事でもあったの…?」
「………………分かんない。……全然…分かんないんだ………とにかく、一緒に来て。………違う所で寝るよ…」
短い会話を終えると、レトはマントで包んだドールを背に抱えた。
ひたすら無言で悶え苦しむリストを一瞥し、振り切る様に目を背けてノアの元へと駆け寄った。
その途中、何か言いたげな様子で佇んでいたユノへと近寄り、脇に垂れ下がっていた彼の手をそっと引いた。
…言う通りに少年少女三人が集うと、ノアは「良い子ですね~」と保母か何かの様に優しく頭を撫でてきた。
「従順な子供は大好きですよ。可愛くて仕方ないです。…では、退室致しましょうか。大丈夫、今晩寝ていただく部屋も生温くしますからね~」
…上機嫌にそう言いながらドアを開け、やんわりと子供達の背中を押して廊下へ出した。
………歪む視界から、レト達の姿が消えた。
残ったのは、鼻歌を口ずさみながらこちらを見下ろしている………美しい模様の浮かんだ緑の瞳。